久米繊維工業株式会社・久米会長のゲストスピーチを振り返る

土曜日の授業『中小企業のネットワーク型新事業創造』のゲストスピーカーとして、久米繊維工業株式会社 久米会長がいらっしゃいました。

90分の予定を超え、大変エネルギッシュで刺激的な、気付きの時間を頂きました。

私もビジネススクール(MOT)の卒業生の端くれ。ただ飲み込むだけではなく、自分なりに講演内容を噛み砕き、消化してみようと思います。

本テキストは、専門職大学院の卒業生が、久米会長の講演を自分なりに解釈・補足したものであり、久米社長ご自身のお考え、また大学の授業が意図する解釈と異なる可能性があることをあらかじめお断りいたします。


ブランド構築のための全体戦略と、TOCを踏まえたラインナップ

※久米社長スライドイメージより書き起こし

久米会長は商品を

『神話的商品』・・・赤字でも、売り上げの1%でも良いので、自社の理念を体現して感動を呼び起こす

『プレミアム商品』・・・自社のファンが継続的に購入してくれ、売り上げの割合は低くても利益を創出する

『普及量産商品』・・・そこそこの品質で安価に提供し、売り上げの大部分を占めるが利益は少ない

の3つに分類されています。

 


MOTの視点から久米会長の講演を伺う過程で、一昔前にヒットした『ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か』という本を思い出しました。

普及→神話のラインで考えますと、価格(普及量産商品)だけに目を向けていると利益(プレミアム商品)・神話(ブランド・感動)を実現することが出来ません。

一方、神話→普及のラインで考えますと、神話(ブランド)や利益を実現する開発・生産能力は、普及量産商品のライン確保により裏付けられるものです。

3ラインのバランスをとりつつ、ではどのように神話(ブランド)を作り出し、それをプレミアムに落とし込むか、それが久米会長のスピーチ(戦略)の根幹であると感じました。

外部とジョイントして『神話』を作り出す。その為のネットワークをソーシャルネットワークで生み出す。

中小企業が、『神話』を生み出すために、久米会長が行ったことは、

1)自社の過去の体験のなかに『神話』を作るきっかけを見つけ出すこと

2)外部とジョイントして『神話』へのストーリーテリングを構築すること

でした。

1)のプロジェクトは、久米繊維謹製色丸首Tシャツ(無地で1万円を超える、材料選択や縫製法に贅をつくしたTシャツ)として結実します。

そして、2)を実現するための外部とのネットワーク構築に、久米社長はソーシャルネットワークを最大限に活用され、成功されます。

その為の極めて実践的なノウハウを、久米会長は惜しみなく我々に教えてくれました。

自身の経験を踏まえたその実践法が、授業『中小企業のネットワーク型新事業創造』のテーマとなります。

リアル(Face to Face)まで繋げる事を徹底する。

久米会長が重ねて説明されたことが、『実際に顔を合わせるレベルまでネットワークを深める』重要性でした。

神話を生み出すエネルギーを持つ社外の人・組織は、『名の通った人』『実績や特殊能力を持つ人』であり『忙しい人』であることが多々にしてありえます。

彼らを動かすためには『相手を理解し、評価していることを伝え(相手の承認欲求を満たし)』→『自分を知ってもらい』→『自分とのプロジェクト興味を持ってもらい、会っても良いと思わせる』 という段階を踏むことが必要です。

相手に目を向けてもらうための、ファーストコンタクト、ソーシャルネットワークの活用、相手に会うまでの情報収集の重要性、果てはその為に必要な『挨拶の仕方』『いいね!の押し方やコメントの活用』までを極めて実践的に伝えていただきました。本当にありがとうございました。

自分が実践する→社員を育てる→社員に任せて自身は次のステップへ。

自分自身がネットワークや神話を作り出す最初のエンジンとなり、トップとして疾走し、自社のブランド化を実現されます。久米会長はそこで立ち止まらずに、社員を育成し、社員に任せることで自分は次のプロジェクト・目標に向かいます。

プロジェクトを承継することで社員各個が意識改革し、眠っていた能力を開花させていきます。

更に、『異能』『異視点』を持つ人材の獲得に目を向け、彼らの能力を活用し、プロジェクトが自分の枠を越えて『転がり始める』事を楽しみながら見守られています。

このプロジェクト承継・人材育成・人材獲得の仕組みが、自社の飛躍の為の極めて重要なポイントになります。

自身が神話の担い手となったら、それを社会や外部にフィードバックし、貢献する。それが自社に新たな神話を生み出す。

久米会長は、外部とのネットワークを構築し疾走される中で、いつしかご自身が『神話(ブランド)を創り出せる能力』と『外部の評価』を獲得します。

その能力を、久米会長は惜しみなく、『自社の外の世界』にフィードバック(恩返し)させます。

(これは、前述のプロジェクト承継を行わず、自身が仕事を抱え込んでいては実行できないことです)

今度はご自身がコアになり、外部のネットワークを結び付け、様々な社会的プロジェクトに挑戦される中で、メンバー共通の『神話(ブランド)』が完成します。結果としてそれが自社の新たな『神話的商品』に結び付いていきます。

『精力善用・自他共栄』という言葉を思い出しました。

何に勇気づけられたか、そして自分(筆者)に何が欠けているか

このセクションは個人的なメモになります。

スライドの端々に現れる、『社員への権限移譲:理念に合えば何でもやっていい』『孤立力:誰もわからないやらないことが好機と思う力』『行動力:自分が動くことでしか問題は解決できない』『処遇で負けても、面白い仕事を任せきることで勝つ』といったキーワードは、自分自身のキャリアと照らし合わせてとても勇気づけられました。

その上で、今の自分にかけているものは、行動としては、外部ネットワークへの積極的な働きかけ、技術としてはデザイン能力(デザインセンス)であると感じました。

前者は動機づけにより超える事の出来る壁なのですが、後者はセンス・スキル的な部分です。

アパレル分野では社内に当然に確保しているものなのですが、個人での確保はなかなか困難です。

最低限のセンスを身に着けるために(すくなくともビジョンやイメージを他者に伝える、納得してもらえる程度には)自分自身に磨きをかける必要性があると感じました。

お互い『ピン』で生きながら

久米会長の最後のスライドにあった『お互いピンで生きながら』という言葉は、素敵でした。

シンプルな表現の中に、どんな組織や立場にいても『自分自身』を忘れず、尊重し、そして甘えずに生きていこう、というメッセージが込められている気がしました。

写真は、小田教授と久米社長の1枚。

本当に素晴らしい講演をありがとうございました。

 

またお会いできるのを楽しみにしております。

 

・・・その為には久米会長の教えを守り、自らが『ピン』の心意気で、働きかけなければいけませんね!