日工大MOTには、様々な立場の方が入学します。経営者/後継者、企業派遣の部長・課長クラスのビジネスマン、起業組や起業予備軍・・・
その中でも、ある意味最も、『ビジネススクールらしさ』をイメージするのは、自分の所属する組織でのキャリアアップを目指して入学される方々ではないでしょうか。
MOTでの勉強や経験を活かし、社内でのスキルアップを実現させた事例として、3期の齊藤さん(株式会社アルプス技研 経営企画部 経営企画課長)へのインタビューを行いました。
前編として、MOT入学のきっかけと、それにより新たなキャリアの幕開けを実現した、在学中についてお話を伺います。。
入学のきっかけと、入学するまでの努力
Q:最初に日本工大のMOTを知ったきっかけ、入学を決めた理由等を教えてください
齊藤:
実はMOTの存在自体は、入学する8年ほど前に知っていました。面白そう、いつか行ってみたいと関心があったのですが、それを実行に移す為の一押しをもらえたのが、『派遣先の上司』の存在でした。
ご存知かもしれませんが、アルプス技研は技術者派遣を主業務としている会社です。私も当時は某大手商社に派遣され、セールス寄りのエンジニアとして主に半導体関連の設計・開発、時には簡単なマーケット分析を行っていました。その時の派遣先の上司に当たる方が、ビジネススクール(MOT)への通学を決定づけてくれました。
彼は国内MBAを取得された方だったのですが、暇をみつけては社内で内輪の勉強会を開催してくれました。勉強会で聞く内容がとても面白く、仕事にダイレクトに『効く』感覚がありました。勉強会の感想を上司に伝えた所、『ちょうど良い機会だし、仕事にも活かせるから、君も是非ビジネススクールに行くといいよ』とハッパをかけて頂きました。
Q:影響を与えた上司がMBAホルダーという事ですが、MBAではなくMOTを選ばれた理由は?
齊藤:
理由はいくつかあるのですが、『技術者としての自分のベース+経営の勉強もしたい』という自分自身のニーズにはMOTが合っていると思いました。もともとMOTに興味を持っていたこともあり、MBAに行きたいという気持ちが少なかったとも言えます。また、上司から、仕事でつながりのある日本工大MOTの先生を紹介しただき、その方からMOTの良さを聞いていた、という事もあります。
Q:少し横道にそれますが、齊藤さんにとってMBAと比較して『MOT』とはどういう概念ですか?
齊藤:
これ、在学中、よく議論しましたよね。BLACK団(後述)に連れられた錦糸町とか上野で、夜の異文化交流そっちのけで(笑)。
正確ではないですし、ケースバイケースだと思いますが、私はMBAとMOTは『本質的に同じ対象を、視点を変えて見ているような関係』ではないか、と考えています。その視点の主眼がMBAではファイナンスや投資に、MOTではイノベーションとなっているのではないでしょうか。その間を橋渡しするのが、ポートフォリオだったり、SWOT分析だったりするのでは、と思います。
少し質問からそれますが、当時の授業で『シュンペーターはイノベーションを提唱する前に「新結合」という概念を使っていた、それが日本語に輸入される際にいつのまにか「イノベーション=技術革新」って翻訳しちゃった』と習いましたよね。しかしイノベーションの対象にはセールスやマーケティング、調達、組織なんかも含まれるので、技術革新という言葉では本質を誤解してしまいます。イノベーションを勉強するビジネススクールがMOTだ、と言い切ることは難しいですが、理系技術者にしかマッチしない場所ではないですし、技術ゴリゴリの場所でもないと思います。むしろ技術者にとっては、自分が持っていない経営的視点を獲得する場所がMOTだと思います。
Q:本題に戻ります。MOT入学を考えてから実行に移すまで、色々な壁があったと思いますが、準備(根回し)で大変だったことは?
齊藤:
もちろん、お金や時間の面や家族の合意、協力も大変だったのですが、一番大変だったのが『社長から推薦状をもらう事』でした。私は専門学校卒なので、日本工大の出願資格認定審査制度を利用する際に社長の推薦状が必要でした。それなりに大きな会社なのでいきなり社長に会うことはできません。会社の上司から役員を経由して社長にMOTに入学したいという意思を伝えてもらい、実際に面談・説明の機会を作ってもらいました。そこで社長へ自分の気持ちを伝え、共感していただき、無事に推薦状を頂けました。
Q:今、思い出すと、社長に直に気持ちを伝える機会を持ったことが、その後の齊藤さんの社内キャリアのターニングポイントになったのでは?
齊藤:
当時から、いわゆる『声の大きい、モノ言う社員』ではありましたが、それ以外では特に目立ったところの無い社員だったと思います。確かに、声が大きいだけではなく情熱や理性、目的意識を伝えることが出来たことが、現在の自分に繋がっているのかもしれません。MOTの在学期間中から、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)に出向するチャンスを頂けたのも、MOTにチャレンジする姿勢が周囲に評価された事が一因だったと思います。
入学後の刺激に満ちた日々
Q:そうして入学されたMOTですが、授業を受けてどのような感想を持ちましたか?特に印象に残った授業はありますか?
齊藤:
NIT(日本工業大学)の授業はとても実践的だったと思います。どの科目もリアルとアカデミックの匙加減が絶妙でした。レベルが高い授業でしたが、『難しさ』より『新しさ』を感じ、毎日のように感動していました。素晴らしい授業はいくつもあったのですが、まず一つ上げるとすると、当時大学院にいらっしゃった小原先生が担当されていた『経営管理概論』でした。古典から現在までの経営学の道筋を知ることが出来たのは、とても面白く貴重な体験でした。『マネジメントスキル』も、とても印象に残っている授業です。
Q:社会人大学院は、教員や授業からの『気づき』以外に、クラスメートからの『気づき』も大きな要素だと思いますが、記憶に残るエピソードはありますか?
齊藤:
これは本当に数え切れないほどあります。最初に思い出すのが、確か授業初日、土曜日の事です。昼休みに、同級生のTさんがスタスタと教壇に上がり、『私は普段、人の前に立って引っ張る柄ではないのですが、是非この1年間を実りあるものにするためにも、時間を無駄に過ごしたくない。だからみなさん、飲み会を計画しましょう』と、いきなり出欠アンケートを取り始めたのが強烈な思い出です。
確か2週間後、ゴールデンウィークの前には、1期、2期の先輩も募って大学院の屋上でパーティをしましたよね。後に、我々3期生が誇りをもって『飲みの3期』『バカの3期』と自称するようになったのも、これがきっかけだったと思います。アンケートがきっかけで意気投合した3人で、初日の夜に人形町で飲んだことも昨日の様に思い出します。
初日に飲んだTさん、Kさんと私の3人組が結局、お互いに相談もしていないのに秋の卒業研究で同じゼミへの振り分けになったのも、何かの縁を感じています。
Q:入学からの最短懇親会開催記録?は、12期を数える今も、まだ破られていないはずです。他にも印象に残る思い出はありますか?
齊藤:
『BLACK団』も懐かしい思い出です。我々の学年にはI社長やK社長の様な中堅企業の経営者がクラスメートとしていらっしゃったので、彼らが通称BLACK団として音頭を取り、色々な『健全な?大人の遊び』に我々20代~30代前半の若輩チームを連れて行ってくれました。こうした課外活動は本当に楽しかったし、人生の暗黙知を頂きました。その中でも印象的なのが、I社長の『長い付き合いをするためには、ちょっと緩い、気を張らないくらいの関係が丁度いいんだよ』という言葉でした。年の離れた同級生として、『大人』の付き合い方を見て学ぶことが出来ました。クラスメートとして気兼ねの無い関係に立ちながら、若輩者の我々の青臭い意見交換を見守ってくれた人生の先輩方には、今でも感謝の一言です。
Q:卒業研究(特定課題研究)のテーマを選んだ理由は?そして現在の仕事に結び付いていますか? 今日は特にこれを伺いたかったのです。というのも・・・
Q:
今、国の施策で『プロフェッショナル人材事業』という仕組みが立ち上がっています。これは大企業のOB人材や転職希望人材を人事・営業・マーケティング等の『プロフェッショナル人材』としてデータベース化し、これを中小企業へ転職紹介し、中小企業の革新を進めるという制度です。
この概念は、齊藤さんの当時の特定課題研究のテーマと、とても似ていると感じます。
齊藤さんが約7年前に卒論発表した当時は、副査の先生から『これは大企業による形を変えた中小企業乗っ取りでは?』という発言が出るなど、かなりの物議をかもしましたよね。しかし、私は最近の国の施策を見て、齊藤さんが時代を7年ほど、先取りしていたのでは?時代のニーズがやっと、齊藤さんに追いついてきたのでは?と感じるのです。
齊藤:
そういっていただけるのは褒めすぎかと思いますが、言われてみると確かに卒業研究の当時、プロフェッショナル人材制度に近い考えを漠然と感じていました。当時、私自身が派遣系の技術屋としてのキャリアを歩みながらMOTで経営を学び、技術とマネジメントの両方に手ごたえを感じる過程で、『技術が派遣できるなら、戦略やマネジメント、セールスといった機能も派遣できるはず』と考えたのが、卒業研究のきっかけです。技術とマネジメントの両方のアウトソースの担い手となれば、よりクライアントのお役に立てると考えたのですが、これは会社の事業としては実現していません。
授業には楽しい思い出しかないのですが、卒業研究は本当に大変でした。日々インプットされる知識を噛み砕きながら、紙にアウトプットする過程がこんなに苦しいものだとは思いませんでした。しかし、卒業研究でのアウトプットの苦労と経験が、その後の自分のキャリアに大きく影響していると思います。