熱センサであるサーミスタの製造を手掛けられる、株式会社武蔵野技研の山村社長にお話を伺いました。
山村社長こと、山村友宏様は、日工大MOT15期生です。(2020年3月修了)
※文中の画像等は、武蔵野技研様よりご提供いただきました。
【相互に補完しあう国際企業連携、コロナ禍でも着実に成長中】
ご自身は、市場ニーズにマッチした特性を持つ製品の開発と、エレメント(部品)製造に特化し、市場ニーズの収集、および同社のエレメントを使用した製品組み立てと販売に関してはパートナー企業に一任する形で事業を進めておられます。
マーケットは多様で広大な中国です。
コロナ禍の影響もあり、当初の事業計画よりは若干遅れているようですが、 順調に業績を伸ばしておられます。
今回は、埼玉県川越市の工場兼事務所をお訪ねして、色々とお話を伺いました。
起業のきっかけは?
前職では、人々が快適な生活を送るための一助となればと、新しい製品の開発を続け、世界中に届けたいと思い開発の仕事を勤めてきました。
しかし、技術担当役員がエレメントの新規開発を行わない事を決め、自分の思いと違う会社方針により33年間の会社生活にピリオドを打ちました。
同業他社への転職も考えましたが、機密保持の縛りもあり仲間と起業しました。
これからは、自分の責任で製品開発を行い社会に貢献していこうと考えています。
現地とのチャネルを如何に築かれたのか?
前職からのつながり、取引先商社の営業担当としてのつながりが起点です。
元々中国出身の方で、今の納入先も、その際の一社です。
連携内容は当時そのままのスタイルで、仲間内の事業としてスタートしました。
自社の強み
特定の温度帯で、一定の抵抗値を出せる特性を持つサーミスタ・エレメント製造技術が当社の強味です。
具体的には焼結生成するセラミックの電流抵抗値を狙った数値に持っていくわけですが、簡単なものではありません。
原料の組成をまねることは可能ですが、焼成プロセス(時間等)をコントロールすることにより、任意の特性を導けます。
そうした数値的な性能の実現はもちろんですが、安定性・信頼性を担保できるところが本質的な強みです。
当社がパートナーを通じて狙っている、直近の中国市場のセグメントは、家電とモビリティ(自動車)分野です。
特に前者は、次々と新しい市場が勃興しており、そうした新市場をとればその分野でのデファクトスタンダードになれます。
ただ、まったく同じものがより安価にできる等、代替品に置き換えられるリスクは常にあります。そんな状況下でも、製品の安定性・信頼性がものをいいます。
よい製品は、その品質を静かに主張し続ける営業ツールといえますね。
例えば現状、中国は世界の工場ですが、電子タバコの機器は中国が世界の80%ほどの生産量を担っています。
現状、この分野からの引き合いもありますが、色々な温度特性への要求や蒸気を使い火を使わない等、これまでにない要件も色々出てきており興味深いです。
中国は、小家電・電子機器分野では明らかにイノベーションのスピードが速く、新しい製品分野がどんどん出てきています。
そうした、新たなマーケットニーズに直接触れられるところも、今のパートナーとの連携スキームの強味だと感じています。
運のいいことに、連携先相手の董事長も、日系企業への勤務経験があり、日本的なやり方を分かり合える点が良かったと思います。
回数は少ないのですが、現地に赴いた際に工場の生産性向上につながるアドバイスもしてきました。
昔手がけた仕事に助けられている感じですが、偶然の出会いを経て信頼関係を築くことが出来て良かったと思っています。
今後の活動指針
現状は、研究開発費を頂くとともに、研究テーマも提示され、実用レベルの部品供給という形で結果を出す。
といった内容の業務になります。
研究開発費には、実費というか設備・機械の現物支給も含まれておりまして、主に中国製の新品はもとより日本製中古を含む設備の供給を受けております。
中国製の機械はまともに動くものがほとんどなく、当社基準の品質を出すためにはそれなりの整備・修理の手間もかかりますが、逆にそういった『品質を担保する能力』が提携先の信頼につながっているのかもしれません。
先方の責任者である董事長が機械好きであり、安定稼働と品質確保のための色々な工夫の仕方を共有することがより良い関係性の構築につながっているようです。
ただ、発注・納入先が一か所というのはさすがに心もとないので、それなりのリスクヘッジは当然必要です。
現状の小家電分野は、利益率は良いのですが利益額そのものはあまり大きくありません。
もう少し付加価値の高い分野を狙っていく必要があり、そうした分野に向けた開発能力はあると自負しています。
具体的には、医療や農業分野に新しい電子機器の適用は進んでいますし、今後ますます成長していくであろう分野だと認識しています。
例えば地元狭山ではお茶の防霜のDXというテーマがあります。
今すぐには無理ですが、そうした新しい分野への進出は常に意識しています。
とりあえず、直近で着手できそうなテーマとして、簡単なロボットを作りたいと考えています。焼成した高熱のエレメントを窯から取り出す工程の自動化です。
人手だと、温度が下がるまで1時間程度の段取り上の待ちが生じます。
これをロボットで自動化すれば、設備の稼働時間を延ばせ、生産性の向上が見込めます。
それから、もう一人社員を増やそうとしています。
間もなく月産300万個程度のエレメント量産体制が必要になりますので、どうしても人手の補充が必要です。
昔一緒に仕事をしていた、ほぼ同年代の仲間に声をかけており、年俸制で来てもらうことになりそうです。
日工大MOTでの学びとは
私にとっては、『起業』という新しく始めるやるべきことを、具体的な計画として表現できた場です。
もともと、そのような目的をもって入学を検討していましたし、そういう意味では『予定通り』です。
前職で製造設備を探していた際に、とあるメーカーの社長が日工大MOTの出身で、ご紹介いただき興味をもったのがきっかけで日工大MOTを知りました。そのメーカーの機器は素晴らしいものでしたし、社長さんも魅力的な方でしたので、日工大MOTには私のやりたいうことをかなえてくれるだろうとの期待感がありました。
入学してその思いは確信に変わりました。
まず、学びを通じて、自身の得意なこと、強みがはっきりと認識できました。
私の場合は『起業』という目的がはっきりしておりましたので、そこに至るためにはなにが必要で、そのために今何をやるべきなのかが、はっきりと認識できました。
やるべきことが分かれば、あとはやるだけなので、最適な手段を選定し具体的な計画を策定し実行するだけです。
自身の納得感はもちろん、部下に指示を出すにしても事業上の必要性などを効率よくきちんと言葉で伝えられるようになりました。
良い出会いに感謝しております。
MOTを学んだ経営者として
工場長から経営者へと変われたと思っています。
前者は生産現場の管理がメインで、あらかじめ決められた基準の中で品質の確保や生産性の向上に努めます。
それはそれで大事な役どころであり、簡単なことでもありません。
しかし、当社のような中小規模の企業の社長、つまり経営者となるともっと違った視点での現場とのかかわりが必要になります。
工場長としての仕事はもちろん出来て当たり前で、それに加え、先を見通し変化に対応できるよう予測をもとに判断し、現場オペレーションの基準を決めていく必要があります。
例えば当社は、製品の材料・素材として金などの貴金属も使います。
1gで万円単位のものもざらにあります。
一方で、当社の製品単価は、2~3円です。
高価な素材をラフに扱い、無駄にしてしまうことが重なると大きな損失につながりかねません。
生産現場では中々意識しずらい観点です。
ただ、そうした指摘をするだけでは、ただの『ケチ』で終わってしまいかねません。
小さな製品1個を作るうえでも、素材の無駄をなくし生産性を上げていくことが会社が次のステップを踏み成長していくための原動力になることを納得してもらう必要があります。現状の当社であれば、『中国市場で次々と勃興していく新しい小規模家電が要求するニッチな特性を実現をするための研究費用の原資となるから』等でしょう。
そして、研究=投資と考えれば、なにに投資すべきなのかは社会や市場の状況によって変わりますし、マクロなトレンドを観るだけでは競争力の確保・維持は難しく、時には『予想して賭ける』的な判断が必要になる可能性もあります。
そうした、『変化に対する順応性の維持』に努めるところは、経営者にとって大事な使命です。そして、顧客やパートナー企業にそれを正しくアピールし、自社製品への信頼を確保し続けることも需要です。つまり、内部にも外部にも、自社の発展と成長を促す環境維持を目的とした働きかけを続けることが肝心です。
工場長の仕事にプラスして、会社の将来を考える。
もちろん後者がメインですが工場長としての仕事もきちんとこなす。
それが中小製造業の経営者だと考えています。
そうした考え方が自然にできるようになったのは、日工大でMOTを学んだおかげだと感じています。
山村社長、ありがとうございました。